旧暦のお正月が近付くと、台湾もちをこしらへます。しかし今年不幸にあつた家はこしらへません。
台湾もちは先づ糯米に水をまぜて、臼に入れてひきます。それがすむと水をしぼつてかたくし、砂糖を入れてこねます。それから蒸籠にいれてむすのです。むす時には塩とお米を少しずつ蒸籠のふちにまいて、その上に包丁を置きます。これは早く上等に出来るやうにとおまじなひをするのです。
むす時には、お母さんは私たちを、けつして蒸籠のそばによせつけません。子供がそばで悪口を言ふと、よくむすことが出来ないといはれているからです。よくむせないと、次の年は運が悪く、もしそれと反対に、よく出来ると好い運が廻つて来るといわれています。これまで私の家では、失敗した年には、きつと何か悪いことがあったさうです。おぢいさんが人にだまされて、何千円も取られたり、桃園の田圃がだめになつたりしたさうです。今年も失敗したので、お母さんは気にかけています。失敗するとおぢいさんに叱られるので、これまではかくすやうにしていましたが、今年はしかたなしに言ひました。おぢいさんはだまつていました。
川村湊、1994、(海を渡った日本語〜植民地の「国語」の時間)青土社、P49
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